2023年度 第8回児童学科海外研修旅行(イタリア レッジョ・エミリア)

 2024年3月18日〜3月24日にかけて児童学科学生13名は引率の教員西坂小百合教授、渡部直准教授とともに「レッジョ・アプローチ」で知られるイタリアのレッジョ・エミリア市を訪れ、幼児教育施設や関係施設を視察しました。研修や現地の子ども達との交流を通し、その理解を深めました。

【訪問施設】

1. マラグッツィ国際センター

 レッジョ・アプローチの草創期に尽力した教育思想家・教師のローリス・マラグッツィの名を冠する本施設には、レッジョ・アプローチにおける企業や海外との連携を円滑化するために設置された組織「レッジョ・チルドレン」が事務所を構えています。ミュージアムやアトリエ、セミナーセンター、ブックショップ、レストランなどが併設されており、世界中から教育者や教育学者が研修に訪れる施設です。学生はここでレッジョ・エミリアの歴史、教育システムの概要、レッジョ・アプローチにおける子どものイメージ、「アトリエ」の意義などについて講義を受けた後、アトリエを見学しました。「100の言葉」として表現される様々な素材・アプローチによる実践に触れるとともに、子どもが主体となり「探求」することを大切にするレッジョアプローチのコンセプトについて理解を深めました。

2. 幼児教育施設視察と現地の子ども達との交流(ローザ・ガレオッティ幼稚園、エリザラーリ幼稚園、バレーナ・ブルー幼稚園)

 「メソッド」ではなく子ども達の「探求」を大切にするレッジョ・アプローチでは各幼児教育施設での実践も一様ではありません。教育学を専門とするペダゴジスタ、芸術を専門とするアトリエリスタ、保育者、調理師など様々なスタッフ、施設の職員が一つとなって、それぞれの施設の方針を作り上げています。

①ローザ・ガレオッティ幼稚園 

 レッジョ・エミリア市内にあり、グリーンセンターという別名もあるこの幼稚園は郊外というロケーションを活かし、牧草地の広がる長閑な環境の中で自然物との触れ合いを大切にした教育を行っています。そうしたこの園のアイデンティティや教育方針を伺ったあと実際に子ども達が造形活動を行う様子や散歩の活動を見学しました。

②エリザラーリ幼稚園

 同じくレッジョ・エミリア市内にあるカトリック系のエリザラーリ幼稚園では子ども達との交流活動を行いました。「人生は素晴らしい!」という園の年間のテーマを踏まえて学生達が中心となり「お祭り・縁日」をテーマにしたワークショップを実施しました。「輪投げ」や「ヒモくじ」、オリジナルの「鳴子」を作ってみんなでよさこいソーランを踊るなど、造形活動や体を動かすことを通じて、言葉は通じない中でも有意義な交流の時間を持つことができました。

③バレーナ・ブルー幼稚園

 日本語で「青い鯨」という名前を持つこの幼稚園は、園舎が大きな鯨の形をしています。この園舎を作る際に子ども達のアイディアが取り入れられました。ペダゴジスタから話を伺った後、園内で子ども達の様子を見学しました。カルピ市内にあるこの園はレッジョ・アプローチを実践していますが、レッジョ・エミリア市内の園とは少し異なり、より地域との連携や家族の参加を大切にした活動に力を入れている印象を受けました。「ドキュメンテーション」は保育者をはじめとするスタッフが子ども達の活動の様子を観察し、記録・展示するレッジョ・アプローチの特徴的な活動の一つですが、それが子ども達の育ちを可視化し、スタッフ、そして家族と共有するためのものとして重要な役割を果たしていることについて理解を深めました。

3.レッジョ・レミダ

 レミダは、企業の廃材活用を目的として、企業とレッジョ・エミリア市、そしてレッジョ・チルドレン財団のコラボレーションにより設立され、地域の企業からでる廃材を文化的リソースとして教育に活用することを目的とした施設です。手で触れるものが全て金になってしまう王(レミダ)の伝説から施設の名前を取っており、「経済的価値のあるものだけが大切ではない」「不完全なものの権利」「皆、異なるからこそ心地よい」といった信念が施設のコンセプトを形作っています。レッジョ・レミダには地域の教育関係者や学生、そしてアーティストが廃材を利用しにくることはもちろん、廃材の使い方に関する研修も行われています。様々な廃材を見たり触ったりしながら、素材の隠された魅力を発見する喜びに触れました。

4.子どもアート図書館ディダルテ

 子どもアート図書館は、レッジョ・エミリア市が教育プロジェクトの一環として設立した図書館で、アート関連の書籍が国内外を問わず保管されています。19世紀から存在する市の博物館の中に設置されていることも特徴的で、美術・科学・考古学が混在するこの環境が重要であると学芸員の方は語ります。「本を通じて多彩な表現方法の在り方を伝える」「アートを子ども達の日常に結びつけやすいようにする」ことを大切にしており、主な活動の一つであるワークショップでは、様々な絵本を用いて新たな視点を得られるような体験をすることができます。また制作を通したワークショップも行っており、参加した当日は「木」をモチーフに複数のアプローチで描いてみる活動を行いました。コラージュ・ドローイング・スクラッチに取り組みながら、一本の「木」を描く中にも様々な可能性があることを実感しました。